大西健丞 寄稿 

5年目を迎えたジャパン・プラットフォーム

 

「NPOジャーナル」7号より

発行:関西国際交流団体協議会(2005年夏)

NPOジャーナル

(転載はお断りします)


5年目を迎えたジャパン・プラットフォーム

―その意義と課題

 

                   ジャパン・プラットフォーム評議会議長 大西健丞

 

 

セクター間協力の人工基盤

 国際人道援助におけるセクター間の連携をめざした「ジャパン・プラットフォーム(JPF)」が2000年に発足して、この8月で5年目に入った。この間、JPFはアフガニスタン、イラク、イランなどで23億円以上を日本のNGOに助成し、文字通り、活動を支える「プラットフォーム=基盤」の役割を果たしている。

 JPF設立のねらいは、NGO、経済界、政府、民間財団、学識経験者、メディアなど多様なアクターが資金や人材、技術を出し合い、緊急時の迅速な出動を可能にすることにある。前年のコソボ、東ティモールでの緊急難民支援に際し、初動資金の乏しさから欧米のNGOに出遅れた苦い経験が、構想の発端となった。

 欧米主要国では歴史的、宗教的な背景もあり、NGO/NPOを軸としたシビルソサエティ(市民社会)が政府、経済界と並ぶ「第三のセクター」として認知されている。NGOは高度な知的職業とみなされ、寄附文化も定着している。そんな豊かな社会的土壌から養分(資金や人材)がNGOに絶えず供給され、「国境なき医師団」のように年間予算が数百億円にのぼる団体もある。

一方、日本ではNGOを育む土壌がやせていて、シビルソサエティが根づいているとは言いがたい。土壌改良には長い年月がかかるから、NGOが政府(第一セクター)や経済界(第二セクター)と組んで活動の幅を広げるための人工的な基盤がまず必要だと考えた。

 

高まった透明性とスピード

 JPF設立の効果は、参加NGOの支援実績の拡大を見れば明らかだが、それ以上に本質的なのは、ODAの重要な一部をなす人道援助のあり方や事業内容について、関係者が一堂に会して話し合う場が常設されたことだ。従来は、事業を計画しているNGOが個別に資金助成を申請し、外務省が支出の可否を決めるという一対一の関係だった。外務省とNGOとの間には歴然とした力の差があった。

JPFではあらかじめODA資金や民間寄付金がプールされ、各セクターの代表者が集う「評議会」で支援方針や助成先のNGOを決める。さまざまな立場や視点からの意見をたたかわせることで力のバランスが生まれ、透明性のある議論が行われるようになった。

 このことは、助成手続きの迅速化にも貢献している。申請から拠出までの時間は、外務省が直接助成する他の制度はもちろん、アメリカ国際開発庁(USAID)や欧州人道援助局(ECHO)など欧米の代表的な政府系援助機関と比べても格段に早い。自己資金力に乏しい日本のNGOも、いち早く現場へ出られるようになり、9・11テロ後のアフガン支援やイラン地震支援などで国際的に高い評価を受けた。

 NGO間に健全な競争と協力が生まれたことも大きい。各団体は評議会に事業計画を提出し、助成の承認を競うことで、互いに学び合い、切磋琢磨しながら支援の質を高めている。複数のNGOが共同で事業を実施したり、結束して政府に対する要望をまとめたりする動きも徐々に出始めた。

 

復興への移行期の支援戦略

課題も見えてきた。その一つは、緊急支援から復興・開発フェーズへの「つなぎ」の時期における支援戦略の必要性である。現行のJPFを通じた助成では、その中核をなすODA資金の対象は、紛争や自然災害時の緊急人道支援に限られている。このため、より中・長期的な復興への移行期には十分な資金がNGOに流れなくなる。復興・開発段階まで支援を続けようとするNGOは、募金などで独自に資金調達をめざすが、事業の縮小や撤退を余儀なくされるケースも多い。

被災者の自立まで切れ目のない援助プランを描けるよう、復興あるいは開発フェーズにもJPFが積極的にかかわる方向でマンデートを広げるべきだという議論が内部でも出始めている。近年の人道援助の潮流である「人間の安全保障」の概念にも沿った考え方だ。こうした議論をさらに深め、JPFとして「緊急後」にどうかかわっていくのかを早急に固める必要がある。

使途に制約の少ない民間資金を増やす努力も重要だ。昨年暮れのイラン地震支援で、助成総額の半分近い1億5000万円が民間の企業・団体から寄せられ、幅広い復興需要をカバーできたのは意義深かった。そもそもJPF設立の趣旨に照らせば、資金の出所が政府にあまり偏るのは好ましくない。今後とも経済界との連携強化に努めたい。

 

強いガバナンス体制の構築

もう一つの課題は、ガバナンスの改革である。現在は、参加NGOの集まりでありJPFの一構成単位でもある「NGOユニット」がNPO法人格を持っている。しかし、意思決定主体としての評議会と、法律上の責任主体であるNGOユニットとの役割の仕分けが明確でなく、組織運営の合理性や効率性の点で問題なしとしない。

当初の設計図では、NGOユニットでなく、JPF全体が法人格を持つという想定だった。だが、外務省が理事を出せないという事情から、組織の早期稼動を優先して、ひとまずNGOが理事会を構成し、法人格を取得した経緯がある。先の問題もそこに起因している。

より強力ですっきりしたガバナンス体制の構築に向け、セクター構成を反映するような理事会を新設し、JPF全体として法人格を得る方向で検討している。各界で高い見識と実績を持つ方々にJPFの顔=理事として組織運営を担っていただき、信用力や資金調達力を高めるねらいもある。

 

政府資金の受領と「独立性」

 政府から資金提供を受けつつNGOの独立性をいかに保つかという、古くて新しい課題もある。イラクの人質事件で邦人保護問題が注目された際、退避勧告を出しながらJPFに資金を拠出している外務省の対応の是非が国会で取り上げられ、外務省がNGOに退避勧告地域での日本人スタッフの活動休止を求めてきたことがあった。

紛争地で活動するJPF参加のNGOは、政府資金を受ける際の最低限の約束として、「国際人道機関の国際職員が活動している地域で活動する」「撤退計画を事前に作成し、外務省に提出する」などの「安全五原則」を順守している。それだけで絶対安全というわけではもちろんないが、ニーズがある以上、多少の危険を覚悟しつつも支援を続けることはNGOの使命ともいえる。

危険地での活動のあり方は確かに難しい要素をはらむが、JPFの存在意義にもかかわる切実な問題だ。真の意味での「自己責任」原則を確立することが唯一の道しるべかも知れない。

 JPFの今後の展開は、ODAの領域でNGOがどれだけ信頼され、主要な役割を担っていけるかを大きく左右するだろう。原点を忘れず、活動の一層の充実に努めたい。

 

(転載はお断りします)


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