大西コラム COLUMN 「常在戦場」

アジア太平洋地域において、災害や人道危機への共闘を目指す新しい仕組み「アジアパシフィックアライアンス」が立ち上がりました。

vol.1

2013.3.4

2012年10月21日、アジア太平洋地域において、災害や人道危機への共闘を目指す新しい仕組み「アジアパシフィックアライアンス」が立ち上がりました。日本を含むアジア太平洋地域は、自然災害の多発地域です。なかでも、2004年12月のスマトラ島沖地震・津波や、2011年の東日本大震災は、私たちが近年経験したことのない深刻な被害をもたらしました。私は、NGOで人道支援に19年間関わってきた経験から、災害時の緊急対応の鍵は、企業や政府、NGOなどがセクターを越えた連携にあると考えてきました。支援の想定プランをあらかじめ共有し、それぞれのリソースとノウハウを最も有効な形で組み合わせることが、最も大事な要素であるということを東日本大震災の際にも実感しました。さらに、国境を越えた支援の重みは、支援を受ける側として、深く心に感じました。いわば、グローバルなソーシャルキャピタル(社会的目的を達成するための、重要な人間的絆)の重要性を深く意識した2011年、12年でもありました。

アジアパシフィックアライアンスは、先進国から発展途上国への一方的な援助ではなく、いわゆる先進国をもが受益者に成り得る場合にも備えた、新しいシステムなのです。さらに、政府以外のセクターが公益を担うということが設定されており、新しい形のグローバルガバナンスを提唱していくことも目的です。その設立は、日本、インドネシア、韓国、スリランカ、フィリピンの5か国の企業やNGOなど、各国で災害支援の中核として活躍してきたメンバーが集まって実現しました。長年、それぞれの緊急支援の現場に身を置いてきた経験を共有し、皆、「一人でも多く救う」という共通の強い思いを持っています。もちろん、自然災害のみならず、人為的な人道危機においても、国民国家の壁を越えて活動することが理念として語られています。とは言え、数年間に及ぶ、関係国のNGO、ビジネスセクター、政府、国際機関などの真摯な、しかしながら、消耗することも多い対話を経て実現に至りました。異なるパラダイムのもとに動く各セクターが、曲がりなりにも、数年のうちに、このような新しい国際システムの設立に同意に至ったその根底にあるものは、凄惨な現場での無力感に苛まれた経験を共有できたことなのです。

もちろん、この新しい試みの優先的な目標は、「一人でも多く救う」というところにありますが、その実現過程のなかで、「新しい公共」や代表制民主主義を補完する2番目の社会的回路の創造など、多くのイノベーションを生む挑戦が含まれることになります。欧州共同体が石炭・鉄鋼の生産を共有化することから始まったように、東アジア・東南アジアにおいては、災害や人道危機に共働することから地域の新しい構造物を生み出すことを始めてもよいのではないかと考えています。

最後に、アジアを始め、世界各国から東日本大震災の際に寄せられた支援に、この場を借りてお礼を申し上げます。